モケットは電車、バスなどのシートに使われるパイル織物。高野口では100年の歴史と実績を持ち、厳しい安全基準をクリアする高品質を誇っています。耐久性に優れた“すごい”織物なのにあまり知られていない…米阪パイル織物では新幹線用のモケットも作りながら、その魅力を伝えていく取り組みをしています。
あの電車のシート生地が高野口のモケットかもしれない件
モケットという生地をご存知でしょうか?
電車やバス、新幹線に乗ってシート(座席)に使われている素材に注意を払う人は、殆どいないと思います。
何気なく座っているシートですが、そこに張られている生地を一度まじまじと見て、そ~っと撫でて下さい。(怪しまれたらスミマセン)
サラサラの短いパイルが密に織り込まれていれば、それが『モケット』と呼ばれるパイル織物です。
こんな織物⇓
南海電車(本線、高野線など) 近鉄電車、新幹線N700系 etcのシートはモケットが張られています。
用途は航空機、路線バス、観光バス、高級自動車など乗り物だけでなく、映画館や劇場、飲食店などの椅子にも使われることがあります。
と、言われて「ああ、あれね!」とピントきたあなた、素晴らしい記憶力です。
ほぼ気にされることがないシート生地ですが、じつはその多くが高品質パイル織物の唯一の産地=高野口で作られているのをご存知でしょうか?
そう、made in Koyaguchi なのですよ。
しかも日本でのシェアは、なんと7割強。
なにかと輸入に頼ることが多い時代に、日本の和歌山県の世界遺産の山のふもとで織られている生地が、100年にわたり使われ続けているなんて、意外というか・・・意外です。
あなたが普段乗っているあの電車、バス、よく行く映画館のシートは、はるばる高野口からやって来たモケットかもしれません。
次に電車に乗ったらぜひ⇑のようなことを思いながら、優しく撫でてじっくり見てもらえると嬉しいです
日本の安全、安心、おもてなしの心が詰まった織物
椅子に張られる素材は皮や優れた合成皮革、モケット以外の織り生地など沢山ありますが、なぜモケットが電車やバス、劇場のシートなどに使われるのでしょうか?
一言でいうと「すごい!」パイル織物だから。
そもそもモケットってどんな織物なのか、から説明しましょう。
モケットはパイル織物の一種です。英語、仏語でmoquette。
考案されたのはフランスで手織りでした。
(パイル織物について詳しくはコチラ➡ こうやブログhttps://yyypile.com/pile/what-is-pile-fabric)
化学繊維(丈夫なポリエステルが多い)やウールのパイルを布の片面だけに密に織り出したものであり、毛足が短いカット仕立てになっています。
一見なんの変哲もないパイルですが、実は長さと密度の絶妙なバランスがすごい効果を生み出しているのです。
①パイルがあるため、織物を成立させている緯糸、経糸に直接モノが触れないので傷
みにくく、長く使える(摩耗しにくい)
②パイルがモノとの摩擦抵抗を大きくするので滑りにい
③パイルの間に空気を含むので、蒸れにくく適度に暖かい
④濡れてもすぐに浸み込まない。(撥水作用がある)
⑤手触りもサラサラと心地よいので、ついつい撫でて癒される
高野口のモケットはシートの張り地として100年以上使われてきたという確かな実績を持っています。
揺れ動く電車やバス、劇場のシートなどは、不特定多数の人が使い長時間座ることが多いもの。耐久性や安全性、長時間使用での快適性が要求されますが、モケットは全てに応える織物だから、昔から変わらず使われているのではないでしょうか。
でもまだまだ、あまり知られていない「すごい」ことがあるのです。
日本の交通機関の内装では、省令により求められる難燃性基準をクリアしたものだけが使用を許可されます。(不特定多数の人が利用し、可燃性燃料を搭載している場合もあり万が一の火災から人々を守る対策の一環)
よってモケットにも高い難燃性が求められるため、特殊な加工をしなければなりません。
(加工作業は専門工場に引き継がれます)
さらに、さらにシートに生地を張る作業では、弛みやシワがでないように強い力をかけて引っ張るので、モケットには裂けないための強度と座席の形に添わせるしなやかさの両方が必要です。難燃も強度軟度も織物の試作を繰り返し、微調整を経てやっと許可されたもの。
職人の技術の高さと誠実さ、熱意がないとできません、絶対に!
どうですか?すごいでしょう。モケットは日本の安全、安心、心地よさも提供するおもてなしの心が詰まったパイル織物。そっと私たちを支え続ける縁の下の力持ちですね。
米阪パイル織物のモケット
では、電車のシート⇒高野口のモケット⇒すごい!と理解してくださったと信じて、声を大にして言います。
『私たちも、その“すごいモケット”をつくっています!』
ご覧ください、こちらが様々な協力、連携のもとで作られたシートです。
新幹線N700系で使われているモケットは複雑で細かい柄を織り出すジャガード織機で織られています。織機には約3500本の糸が1本1本、職人の手でたてられます。その後、これもまた職人の手で1本づつ綜絖を通し ・・・気の遠くなるような作業が終わると、織機を慎重に動かしながら調整したのち製織スタートです。
米阪パイル織物ではパイルの長さが2.4㎜のものから3.4㎜のものまで織りますが、長さもキッチリ&ピッタリ規定通りでないと許されません。
すべてはお客様の安心、安全、快適のために!です。
静電気で糸が絡まないようにミストを噴射させるなど細心の注意が払われて、やっと織り上がり。
そして仕上げ工程へ。
仕上げはバッキングと難燃加工です。
バッキング加工とは、織物の裏側に薄くコーティングをすること。高野口のパイル織物は普通でも毛羽抜けが少ないのですが、過酷な使用状況でも、ほぼ抜けなくなり、また生地のしなやかさを損ねず強度がUPします。
個人的なエピソードですが、我が家の猫が米阪パイル織物製のモケットで爪を研ごうと1ヶ月ほどガリガリ頑張ったのですが、諦めて止めてしまいました。
生地には、うっすらと数本の筋がついただけ。モケットの丈夫さを実感したものです。
暮らしのなかにモケットを!電車のシート生地がサコッシュになった件
米阪パイル織物では数年前にモケットを使ってサコッシュを作り、販売しました。
サコッシュ・・・そう、あのマチがなくてスマホと財布とカギ程度を入れて斜め掛けできる小さいバッグを作ったのです。ブランケットでもなければ椅子でもない、バッグです。
その名はモケッシュ。
モケットで作ったサコッシュ⇒モケットサコッシュ⇒モケッシュ
「それ、ええやん」ということで名前が決まり、ロゴも作りました。
ところが、バッグに仕立ててもらう肝心の縫製パートナーが見つからないという壁にぶちあたります。
実はモケットは、しっかりしたバッキング加工がされているのですが、革や分厚い帆布を縫う特別なミシンが必要で、さらに滑りやすいのでズレなく縫うことが大変難しい素材だから、安易にOKしてもらえなかったようです。
それでも「やってみましょう」と快く引き受けて下さったパートナー様と試作を繰り返し、どうにか完成。
無事に販売することができました。
何故そんな労力と時間と資金を使って経験のないモノ作りにチャレンジしたのか?
理由は、だれもが一度は目にして、触れたことがあるはずなのにその魅力があまり知られておらず、暮らしのなかで活用されていない…から。
昔はいろんなものに使われていたけれど、コスト削減という時代の要請にはあらがえず、電車やバスのシートくらいしか見かけることがなくなってしまった・・・
1965年以来、モケットを製造し、そんな状況にもどかしさを感じていた私たちが、モケットをより身近に感じてもらおうと作ったのがモケッシュなのです。
後世に高い技術を伝えていくためにも、敢えてこうした製作を続けることがファクトリーの義務だと考えています。
なるか?モケッシュ第2弾。 みなさん、応援してくださいね。
(モケット、モケッシュ、サコッシュ・・・早口言葉になりそう)
モケッシュの詳しい情報はコチラから⇒https://www.makuake.com/project/moqueche
まとめ
高野口では約100年にわたってモケットを作ってきました。
時代とともに使われる場が人々の暮らしから離れてしまい、一度は見たり触れたりしているのに、殆ど気にされない存在に・・・。
それでも新幹線、電車やバス、映画館や劇場のシートに張られるのは摩擦に強く、生地が破れたりほつれたりしにくく、滑りにくいという他の織物に代えがたい魅力があるから。
日本の厳しい安全基準をクリアし、安心と快適さを提供し続けています。
米阪パイル織物ではお客様からの要望に応えるために日々、研究しモケットの新しい価値、可能性を生み出しています。それとともに、暮らしに身近な製品を作ってモケットの魅力を実感してもらえるよう、経験がないモノ作りにも挑戦しました。
これからもSNSや商品でモケットの魅力を発信していきたいと思います。
インスタグラム ⇒ https://www.instagram.com/yonesaka_pile